大判例

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名古屋高等裁判所 昭和29年(う)370号 判決

原裁判所が取調べた証拠を綜合すれば、被告人が本件公訴事実記載の参議院議員選挙に際し、昭和二十八年四月十八日「拝啓参議員改選に当り全国区より立候補することになり左記の如く事務所を開設致しました先は御知らせ申上げます昭和二十八年四月十八日三重県宇治山田市本町一七五番地たばこ小売人稲葉菊松方(全国専売政治連盟推薦)平井剛選挙事務所電話八八三番」と謄写版ずりで記載した葉書を選挙人丸山栄治等約三十名に郵送頒布したことを認めることができる。而して右葉書は一見公職選挙法第百四十二条の頒布制限を受けない文書の如き観を呈するが、原判決が説示する如く、之を仔細に観察すれば結局候補者の立候補の挨拶を巧に織り込んだもので、同条の頒布制限を受ける文書であると共に、同法第百四十六条規定の脱法文書に該当するものであり、従つて同法第二百四十三条の罪の客観的構成要件たる事実を具備していることは明瞭である。然れども被告人が右文書を郵送頒布するに至つた事情を考察するに、原審証人池西さよ子同山本久雄同宮崎幸雄及び証第一乃至第四号によれば、被告人は昭和二十八年四月十一日全国専売公社労働組合三重支部山田分局書記長に就任したところ、前任者たる久留光也より右組合事務の引継に際し、右選挙に全国専売事業政治連盟の推薦候補平井剛の選挙事務所開設及び選挙運動に関する事務をも併せ受けつぎ、之等の事務を執つている中、右連盟本部から同支部宛に送付された、選挙事務所開設の通知連絡についてと題し、凡例として前示謄写版ずり記載と同じ文案を掲記し、選挙事務所開設に際しては当該支部、分会はその地区の有力者はじめ関係友誼団体宛右文案の事務所開設の通知書を発送せられたい旨指令し、而も右文案の通知書は文書図画の配布ではなく、連絡上必要により唯単なる選挙事務所開設の通知書である旨の註さえ添書された文書(証第一号)を発見したので、被告人は之を合法的のものと信じ、池西さよ子をして葉書に右文案を謄写印刷させ之を前示たばこ小売人等に郵送頒布して右指令通りの扱をしたに過ぎないものであることを認めることができ、右の如き形式内容に作成された文書であること、被告人が選挙運動に経験がなかつたこと、その他諸般の事情を参酌して考慮すれば、仮令所論の如く被告人がインテリであり、相当常識を備えた通常人以上の水準に属する人物であるとしても、前示文書を郵送頒布することは選挙法上認容されておるものと誤信したものと認定した原審の判断は相当で右の如く誤信するにつき相当の理由があつたものと認めることができるが故に、被告人の右行為は犯意なきものといわねばならない。従つて犯罪を構成しないことは論をまたないところである。

(裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 赤間鎮雄)

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